ストーリー
伝統の型染めで生み出される暮らしの布-山内染色工房 山内武志さん【静岡県浜松市】
日本の伝統的な染色技法の型染めは、デザインを決め、型紙を彫り、のりおきをし、染め、色止め、洗いと、単純な型染めでも多くの工程が必要とされる。
「型染めは模様がきっぱりしていて、潔い」と山内さん。
山内武志さんが生み出す染め布は、伝統的な型染めならではの意匠とともに、やさしい肌ざわりや使い心地など、機能性も考えられているのが嬉しい。なかでも、山内さんのオリジナルの意匠「富士山」「山月日」といったモダンなデザインは、若い人も含めて、幅広い世代に支持されている。丸や四角を組み合わせた幾何学模様、家紋や紅型をアレンジした意匠と、染め色の多彩な組み合わせは見るものを惹き込む独自の世界を感じ、つい手に取ってみたくなる愛らしさがある。
創業文化十三年、山内平兵衛刺繍業を浜松に開業す。
型染めはすべての工程が大切
「すべての工程がおろそかにできないんですよ。一つひとつていねいにやればちゃんとした作品になります」と自らを「染色工」と呼ぶ山内武志さん。
実家が染め物をしていた縁で人間国宝の 故芹沢介(せりざわけいすけ)氏に師事し、6年間型染めを学んだ。
型紙をていねいに彫るから、その工程であいまいさが整理され、形ができ上がるからだとか。
手ぬぐいの型紙だけでも200種以上あるという。同じ型紙でも染め方や生地で雰囲気が変わるのが型染めの奥深さだ。
引き染めは刷毛で2、3回は染料を重ねて手間も時間もかかるが 「洗いの工程を終え、引き上げた瞬間は感動しますね」と話す。山内さんの型染めは、伝統的な家紋や吉祥紋様、紅型などを下敷きにしながらも、森羅万象を象るような、生き生きとした力強さを伴って独自の美の世界に結実している。
暮らしで心地よい存在を放つ型染めのもの
山内武志さんの人柄そのままの気取りなく、朗らかに在る一枚の染め布は、わたしたちの暮らしのなかで、安らぎと愉しみ、生きる歓びを染め続けてくれる。
プロフィール
山内武志さん
以来、屋号ぬいやと呼ばれ現在に至る。
明治時代、山内嘉蔵縫いの針を置き、染めの刷毛持ち、藍瓶に藍建て紺屋を始む。
当主山内武志は、型絵染人間国宝、芹沢介に師事、
六年間修行後、浜松に戻り日常のさまざまな染物の要望に応え、又創作作品制作にも取り組む。現在も工房に立ち、染めと向きあい続けている。
◎略歴
1938 静岡県浜松市 紺屋に生まれる
1956 東京 蒲田の芹沢染紙研究所に入門
1959 日本民藝館 日本民藝館賞受賞
1962 地元浜松に帰郷し、ぬいや染物店家業をつぐ
1967 山内プリント研究所としてスクリーンプリント製作も始める
1976 フランス グラン・バレ美術館の「芹沢けい(金へんに土ふたつ)介展」 展示準備に同行
1978 浜松市美術館での「芹沢介の身辺 -世界の染と織展-」
展示準備を任される
山内プリント研究所から山内染色工房の屋号へ
(スクリーンプリント製作終了)
2005 型染め商品と諸国工藝品の販売店「アトリエぬいや」を開業
2011 日本民藝館 奨励賞受賞
現在 全国各地で展示会を開催